遺留分について
私は10年以上、母の介護をしてきました。母はそんな私の介護に感謝して私にその遺産のほとんどを相続させる旨の遺言を残して亡くなりました。母の相続人は私と妹の二人ですが、妹が、私に4分の1の遺留分減殺請求をしてきました。私の母への介護は、遺留分減殺請求の中では何ら考慮されないのでしょうか(遺留分と寄与分)
一般的に考えれば、あなたのお母様への献身的な介護を受けてなされた遺言についてはお母様の意思を尊重されるべきです。しかし、遺留分減殺請求では、寄与分についての規定が準用されていません(民法1044条は寄与分について定めた民法904条の2を準用していない)。そのため、あなたがお母様を介護していたこと(寄与分)は、遺留分算定の際には考慮されません。
父の遺言により,私の遺留分が侵害されている可能性があるのですが,侵害されていることがはっきりするまで遺留分減殺請求はしない方がよいでしょうか(遺留分減殺(侵害額)請求権の行使期間)。
(令和元年6月30日までの相続の場合)
遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈のあったことを知った時から1年で時効により消滅します(旧民法1042条前段)。また,相続開始時(通常は被相続人の死亡時)から10年を経過すると同じく消滅します。
他方,遺留分減殺請求権を行使した結果生じた目的物の返還請求権等は時効により消滅しません。
(令和元年7月1日以降の相続の場合)
民法改正により,遺留分侵害額請求権となり,遺留分権利者が,相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは,時効によって消滅します。
他方,遺留分侵害額請求権を行使した結果発生する債権に関しては,民法総則に従うことになるので,5年間は時効により消滅することは時効により消滅することはありません(新民法166条1項1号)。
(結論)
そうだとすれば,あなたが遺言により遺留分を侵害されているか不明な場合でも,その可能性がある場合には,念のため,遺留分減殺(侵害額)請求の意思を内容証明郵便等で受贈者等に伝えておいた方がよいでしょう。民法改正前であれば,遺留分減殺請求をした後の物件的請求等は時効により消滅しないし,民法改正後であっても,一旦侵害額の請求をしておけば,少なくとも5年間は時効により消滅しないことにことになります。したがって,調停を申し立てるか,訴訟を提起するかなどはその上でゆっくりと検討しても不都合はありません。
高知に住む父が亡くなりました。父の法定相続人は私と兄だけですが、父は近くに住む兄にすべて相続させる内容の遺言を残しておりました。私は、兄に遺言とは関係なく遺産分割協議をしたい旨を申し入れておりましたが、兄は受け入れてくれません。そうこうしているうちに、遺言があることを知ってから1年が経過してしまいました。遺留分減殺請求権は消滅しまったのでしょうか。
相続人から受贈者に対する遺産分割協議の申し入れ、調停の申し立てに、遺留分減殺の意思表示が含まれるかという問題です。
この点、遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果や異なるので、原則として遺産分割協議の申し入れや、遺産分割調停の申し立てには、遺留分減殺の意思表示は含まれません。
もっとも、判例は、「被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには法律上、遺留分殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれている」(最判平成10年6月11日)としています。この判例は遺産分割の申し入れに遺留分減殺の意思表示を含む一例を示すものですが、遺産のすべてがあなたのお兄さんに相続させる旨の遺言がなされているあなたの場合も、遺産分割協議の申し入れをしていれば、すでに遺留分減殺請求の意思表示がなされたと考えることができます。